マイナンバー制度の目的の一つが税と社会保障の公平を実現することです。自身だけでなく従業員の分まで社会保険料を未納している事業者の方も多いでしょう。今後は社会保険料を支払わない方が思わぬ損害を被ることになるかもしれません。
首相による厚生年金実態調査指示
厚生年金の未加入対策が強化される見通しとなった。日本年金機構の調査によると、厚生年金の加入条件に合致する可能性がありながら加入していない事業所が、建設業を含む全産業で約79万社に上る。13日の衆院予算委員会でこの問題が取り上げられ、安倍晋三首相は、厚生年金の適用要件に合うかどうかの調査を「計画的、確実に行う」と表明。これを受け厚生労働省と同機構は、実態調査を急ぎ、未加入の事業所に加入を勧奨する。
マイナンバー制度によって期待される社会保険料未納問題
約79万の事業所が社会保険を未納!
このうち社会保険料で大きな効果が見込ま れているのは企業の年金未納対策です。厚生年 金の場合、全国 250 万事業所のうち、およそ 80 万の事業所で保険料に未納があると厚生労働省 はみています。
今後は加入逃れの調査が強化される!
会社が従業員の給料から保険料 を天引きしていながら、それを国に正しく納め ていないとなれば、その従業員は納めた分に見 合った年金を将来受け取れなくなってしまいま す。マイナンバー制度では個人に番号が振られ るように、企業には 13 桁の法人番号が振られ ます。日本年金機構はこの番号を使って、国税 庁の持つ企業の源泉徴収データの中から従業員 に給料を払っているのに、厚生年金の保険料を 納めていない企業を簡単に割り出せるようにな り、加入指導や強制徴収などが行いやすくなり ます。
社会保険料を払わなければ、さまざまな給付が受けられない!
いざという時の社会保険!
しかし、社会保険給付の手続きにも携わる社会保険労務士からすると、保険料の金額の高さだけに注目することに危険を感じます。ここでは具体的な給付内容についての説明は省きますが、主に、傷病手当金、出産手当金、障害年金3級、障害手当金、遺族厚生年金、将来受給できる老齢厚生年金などの、適正に社会保険に加入していたのならば受給できるかもしれない様々なお金に関係してくるからです。例えば、私生活上の原因でうつ病などの精神疾患になってしまったり、交通事故で大きなけがをして、しばらく仕事を休まなければならなくなってしまったときには、社会保険に加入していれば、傷病手当金を受給できたり、長期に病気やケガが継続すれば、障害の状態が2級までに該当しない場合は、国民年金にはない障害厚生年金3級を受給できる可能性があります。
また別の例えでは、年金を納付していた期間が満額(国民年金480月)と比べるとわりと短いにもかかわらず、老齢年金の受給金額が高い人には、景気の良かった時などに高額な厚生年金保険料を支払っていたというケースがあります。
場合によっては従業員やその家族から損害賠償請求も!
もし企業が社会保険未加入だった場合、退職した従業員が年金請求する際に厚生年金が支給されない可能性があります。その場合、本来社会保険に加入させる義務を負うのは企業側になるため、退職した従業員からの損害賠償請求に発展することが考えられます。
また退職ではなく、従業員が死亡した場合、遺族が遺族厚生年金を請求するのですが、同様に支給されない可能性があります。
家族が社長であるあなたを慮って何もアクションを起こさない、ということは考えられないでしょう。
年金は将来払われなくなる?早とちりは危険!
公的年金は赤字ではない?
まず、最もよく言われるのが「公的年金は赤字だ!」ということです。どういう状態のことを赤字だと言うのかにもよりますが、仮に年金の支払いが賄えなくて、借金して支払っているという意味であるとすれば、年金は赤字というわけではありません。赤字なのは国の一般会計です。赤字だからこそ毎年国債を発行して支出の穴埋めをし、その借金の合計が1000兆円以上もあるのです。年金の場合はどうかと言えば、借金どころか貯金が180兆円余りあります。これが年金特別会計です。ご存じのように日本の年金制度は単年度決済で、毎年入ってくる年金保険料が年金を支払う原資になっています。ところが昔と違って、今は高齢者の割合が多くなってきたために、年金自体の毎年の“入”と“出”で言えば、“出”のほうが多くなっています。
毎年の収支ということで言えば、これは確かに赤字です。でも今までの貯金がありますから、赤字と言っても国の一般会計と違ってすぐに借金する必要はなく、貯金を下ろしていけばいいのです。現実に毎年この貯金の中から5兆~6兆円ぐらいが補塡されています。
GPIFの運用もうまくいっていないわけではない!
公的年金の運用は「年金積立金管理運用独立行政法人」というところが行っています。長い名前なので、一般的には英語名の頭文字をとってGPIFと言われており、最近はこの運用改革が話題になっています。このGPIFが年金積立金を自主運用し始めたのが2001年ですが、2014年末までの13年間で上げた利益の累計額は47兆円あまりあります。ここ数年の年度別に見ても、リーマンショックのあった2008年度こそ年間で9.3兆円ぐらいのマイナスが発生していますが、2009年度から昨年度までの5年間では、2010年度に3000億円のマイナスを出した以外は、毎年プラスの利益となっています。
社会保険に加入しないと罰則もある!
未加入の場合のペナルティとして、追徴と罰金があります。・追徴金について
年金事務所の調査により未加入が発覚した事業所には、該当する者の社会保険料を2年間に遡って追徴されます。
これを事業所と被保険者で折半し、支払をしなければなりません。しかし、従業員がすでに退職をしており連絡がつかない場合などは、事業所が代わりに負担しなければならないケースもあります。
このことからも金額負担がとても大きく、リスクを伴うことが分かります。また、従業員が多かったり、給料の高い人を雇っている場合にはさらに高額になりますので、注意が必要です。
今後は懲役罰も!?
塩崎恭久厚生労働相は19日の閣議後記者会見で、厚生年金の加入を故意に逃れている事業所に対し立ち入り検査を強化する方針を表明した。「立ち入り検査の実施手順を見直す」と述べ、これまでより早い段階で検査することなどを検討する。厚労省によると、厚生年金の加入を逃れている可能性がある事業所は2015年9月末時点で約79万カ所。すでに日本年金機構を通じて調査しており、支払い能力があるにもかかわらず加入しない事業所には早期に立ち入り検査して加入を促す。
法律上は悪質な加入逃れは刑事告発できるが、厚労省と年金機構はこれまで刑事告発をしてこなかった。塩崎厚労相は「仮に告発すればどういう対応になるかも視野に入ってくる」と述べ、経営に余裕があるのに厚生年金の保険料を支払わない事業所は告発する可能性も示唆した。
厚生年金は法人や従業員5人以上の個人事業主に加入義務があり、保険料は労使で折半する仕組みだ。
人材確保のためにも社会保険加入の決断を!
現在では、資本金に関する規制が撤廃され、以前よりは会社設立もしやすくなりましたが、既に事業経営されている方のみならず、これから起業される方も、事業を継続していくためには、社会保険料も経営予算に含める覚悟で起業をされたほうがいいでしょう。どちらにしろ、社会保険に加入するのであれば、給付や将来受給する老齢厚生年金について着目されてはいかがでしょうか。優秀な人材を採用したい場合には、会社の信用にも繋がりますし、もしかしたら、今考えているよりは、社会保険加入のメリットを感じられるかもしれません。