マイナンバー制度の運用開始により、人事部の業務負担が急増する懸念があります。運用にあたって、とくに留意すべきことを紹介します。
人事部門に影響の大きいマイナンバー
マイナンバー制度対応に関連する部門は、(1)総務部門が63.8%、(2)人事部門が59.7%、(3)情報システム部門が49.7%、(4)財務・経理部門が45.0%で、この4つが高い。とりわけ1位・2位の総務・人事部門は6割前後で、3・4位を引き離している。これと同様に、マイナンバー制度対応を主管する部門は、(1)総務部門が35.6%、(2)人事部門が32.0%で抜きんでて高く、他の選択肢は情報システム部門を含めて1桁~1割程度にとどまった。
マイナンバーは、個人所得が発生するところすべてに関係するもの。各企業の人事総務部門でも、導入スケジュールに合わせて、パートやアルバイトを含む全従業員とその扶養家族のマイナンバーをとりまとめ、適切に管理できる体制を整備しなければいけません。給与所得の源泉徴収票や社会保険の被保険者資格取得届などの書類にこれを記載し、関係する行政機関などに提出する必要があるためです。
ただでさえ多い人事部の業務
それでなくても人事部の仕事は、採用、人材教育、給与計算、勤怠管理、評価など多岐にわたっています。勤怠管理とは、社員の出勤や退社、欠勤といった状況を把握して、勤務時間を守っているかどうかを管理することです。この仕事や給与計算は、小さな会社でも避けられない業務です。難しくはありませんが、情報を集めるのに手間がかかります。
給与を計算するには、従業員や扶養家族の住所、氏名、生年月日が必要です。出勤時間、残業時間を把握し、さらに、通勤手当も算定しなければなりません。
こうした情報に、基本給等の情報を併せ、給与を計算し、社会保険(厚生年金、健康保険、雇用保険)の本人負担額や所得税、住民税の計算をします。
社会保険の本人負担額は、給与から控除し、会社負担額と合わせ、各社会保険事務所に納付します。所得税や住民税も会社がまとめて納付します。
正社員だけでなくアルバイトやパートタイマーも対象となります。
人事の仕事の主な業務としては、1採用
2研修制度
3人員配置
4勤怠記録
5保険加入手続きなどがあります。
人事部の負担急増が懸念されるマイナンバー導入
通常は人事部がマイナンバーを担当することになります。小規模な会社の場合、専門の担当者を置くことも難しく、導入の際は、人事部員に相当の業務が加わることになるでしょう。
社会保険関連の提出書類に従業員のマイナンバーが必要
源泉徴収票や被保険者資格取得届などに従業員のマイナンバーを記載する必要がある
従業員だけでなく扶養家族のマイナンバーの取得も必要
従業員だけでなくその扶養家族、および社会保険に加入していないパートやアルバイト、また社外の個人事業主に業務委託する場合にもマイナンバーを取得しなければなりません。
パートやアルバイトで1回限りなどの雇用の場合、マイナンバーの取得を忘れると、後からでは大きな手間と時間がかかる可能性があります。取得をしなければならない対象者を明確にして抜けや漏れがないように業務フローを作成して全部門に徹底しておかなくてはなりません。
本人の確認方法の手順取り決めと周知徹底
マイナンバーを従業員から「取得」する段階のルールとして検討するべきことは、利用目的の明示方法と従業員の本人確認の方法といった点です。利用目的は複数のものを書面で明示することが現実的でしょう。本人確認は、番号が正しいかどうかの確認(番号確認)と本人が正しい持ち主であるかどうかの確認(身元確認)が必要です。そ
個人のマイナンバーを取得するときには、なりすまし防止のための本人であることと、取得したマイナンバーが正しいことを確実に確認しなければなりません。
対面で本人を確認することは容易ですが、電話や郵送、メールおよび代理人から取得する場合や従業員の扶養家族や退職者から取得する場合など、特殊な場合の本人の確認方法などについても、明確に分るように確認の手順を周知徹底しておく必要があります。また、今後、従業員には毎年末にマイナンバーを記載した「扶養控除等申告書」などを提出してもらうことになりますが、原則その際にも本人の確認が必要になります。その場合は従業員が配偶者の代理人としてマイナンバーを提供することになるでしょうが、本人を確認する手順と合わせて、本人の確認が必要になるケースについて全社への周知徹底が必要です。
人事部がマイナンバーを利用する業務をまとめると・・・
事業者が従業員等のマイナンバーを記載する書類には、主に「税分野」と「社会保障分野」があります。具体的な対象業務は「相談スクエア」で以下のように回答されています■人事労務担当者がマイナンバーを利用する業務・事務と利用場面
1:対象業務・事務としては
社会保険料の納付
被保険者資格および給付に関する申請や異動等に関する届出
社員の所得税の源泉徴収
住民税の特別徴収
年末調整事務
源泉徴収票等の法定調書
等となります。2:従って、毎年の定期的な業務の他、社員の入社、身上関係変更(結婚、被扶養者追加等)、休職・復職、組織異動(分社・出向等)、退社等、幅広い場面での利用が想定されます。
3:また、従業員に関する事務以外にも、例えば、
役員報酬、役員賞与の支払
弁護士や税理士などへの報酬支払
株主への配当金支払等の法定調書
についても、マイナンバーの記載が必要になります。(※読みやすさを考慮し、一部編集しています)
人事部任せではない全社的な意識改革が必要
マイナンバー制度に対応にするには、社内の特定部門に任せておけば良いというものでもなく、コンピュータ上でマイナンバーを扱えるようになれば、それで済むものでもありません。
マイナンバー制度は、企業にとっても社会保障や税の事務処理の合理化による大きな費用削減効果が見込まれています。マイナンバー制度への対応は法律で義務付けられておりますが、早めに対応をすることで、その費用削減効果を最大限にできるでしょう。また情報漏えい防止策を練ることで、個人情報の社外への漏えい防止による企業の社会信用の失墜防止が図れます。
マイナンバー導入で、人事部員だけに仕事がしわ寄せされることのないよう、経営者は配慮する必要があるでしょう。